気付けばもう師走。年末年始も、あっという間に迎えることになるんだろう。
その前に。
私たち、テニス部には毎年恒例・・・・・・いや、正確には去年から始まった、クリスマスのイベントがある。しかも、前もって企画を練らなければならない、かなり大がかりなイベントだ。
今まさに、その会議中。話の指揮は参謀こと、柳が執ってくれている。
「では初めに、最も重要なサンタ役を決めたいと思う。他薦、自薦は問わない。何か意見のある者はいるか?」
「じゃあ、俺からいいかな?」
そこで1番に挙手をしたのは、我らが部長、幸村だった。
「何かいいアイディアでもあるのか、精市?」
「あぁ。今年は、マネージャーのがいいと思うんだ。」
「しかし、精市!それでは、を夜遅くに外出させることに・・・・・・!」
それに強く反対したのは、副部長の真田。
「俺たちみんなでを送り迎えすれば、問題ないだろう?」
「だが・・・・・・!」
「安心しろ、弦一郎。その日は早めに寝るよう、去年から言い聞かせてある。そこまで遅い時間にはならないはずだ。」
でも、幸村&柳のタッグに、真田一人で対抗できるわけがない。
それに、丸井、ジャッカル、さらには柳生までもがその二人に賛同し始め、真田も納得せざるを得ないようだった。
「たしかに、なら万が一バレそうになっても、誤魔化しが効きそうだもんな!」
「まぁ、俺たちが勝手に上がりこんでいる状況よりかは、自然だろうな。」
「だろぃ?」
「ただ、体格を考えると、さんでは逆に疑われる可能性が高いのでは?」
「それは大丈夫だよ。俺が衣装を用意するから。」
「なるほど。衣装があれば、少し見ただけでは先入観もあって、サンタクロースだと思い込んでしまうでしょうね。」
「・・・・・・というわけだ、。やってくれるだろう?」
そして、いかに面倒そうだと思っていても。みんな、面白がってるでしょ?と思っていても。その他諸々、気になることがあっても。私も幸村に逆らえるわけがなく、納得するしかなかった。
それに、どうしても嫌だというわけじゃないし。私だって、このイベントは楽しみにしているんだから。
「はい、わかりました。」
「それでは、次の議題に移るとしよう。プレゼントには、何を選ぶべきだろうか?欲しい物ならば、俺にもわかるのだが・・・・・・。やはり、ゲームや漫画ばかりを与えるのは良くないだろう?」
「その通りだ!奴が成長できるような物であるべきだ。」
「でも、やっぱ、貰って嬉しいモンじゃなきゃ、意味ねぇだろぃ?」
「そうだな。さすがに押し付けはよくないだろ。」
「では、どうしろと言うのだ?!」
「難しいところだな・・・・・・。」
サンタ選びはあっさりと決定したのに対し、こちらは少し時間がかかりそうかと思ったとき。今まで口を開いていなかった仁王が、初めて意見を出した。
「すまん。さっきから全く意見を出せんくて・・・・・・。その侘びと言っちゃあ何だが、当日までに必ず最適なプレゼントを用意してみせるぜよ。」
「大丈夫なのか、仁王?」
「任せときんしゃい、部長。」
「・・・・・・わかった。では、プレゼントのことは仁王に一任する。」
「了解。」
「特に異論が無いようであれば、これで会議は終了だ。」
こうして、もう引退したはずなのに、今でも仲良く集まっているテニス部3年のメンバーで、現テニス部部長かつ私の彼氏である、赤也のためのクリスマスイベントの作戦は決定した。
そう、赤也はこの歳になって、まだサンタクロースの存在を信じているらしい。そんな純粋すぎるところが好き・・・・・・ってわけじゃないけど。でも、今時珍しいじゃない?だから、その気持ちを大事にしてほしくて。切原家のご了承もいただき、私たちテニス部が何とか夢を壊さないよう、尽力しようではないか!となった。
そして、当日。私の家の前に、テニス部メンバーがやって来た。
「こんばんは、。」
「こんばんはー、部長、そして、みんな。」
「じゃあ、早速だけど、俺の用意したこの衣装に着替えて来てくれるかな?」
「あ、そっか。家で着替えないとマズイよね。・・・・・・でも、サンタの格好で歩くの、恥ずかしいんだけど。」
「大丈夫だって!今歩いてきた道でも、サンタの格好してバイトしてるっぽい人とか結構いたし。案外目立たねぇと思うぜ。」
「それに、俺たちが壁になってやるから、安心しろ。」
「んー・・・・・・。ま、そうか。わかった。じゃ、ちょっと待っててね。」
丸井とジャッカルの言葉に納得し、私はまた部屋に戻った。そして、幸村が持って来てくれた衣装を見て・・・・・・すぐさま後悔した。
さて、どうしようか。と考えたけど、一向に良い案が出なかった。
どうせ、文句を言っても、これしか無いから急いで着替えて、とか言われるんだろうしなぁ・・・・・・・。唯一の頼みは、間違いなく私に同調してくれるであろう真田の存在だけど。彼一人プラス私ごときで、みんなに反論するのは至難の技。
もうこのメンバーとやってきて長いし、諦めるしかないか、と開き直り、私はさっさと着替えてしまうことにした。
「お待たせ・・・・・・。」
「「「おぉっ!」」」
恥ずかしがりながら家を出ると、仁王、丸井、ジャッカルが感嘆の声をあげてくれた。・・・・・・いや、余計恥ずかしいんですけど。
そして、予想通り、真田は良いリアクションをしてくれた。
「せ、精市っ!にこんな格好をさせるなど・・・・・・た、たるんどる!!」
「いいじゃないか。は女の子なんだから、ミニスカートぐらい穿くよ。それに、ちゃんと冷えないよう、足元は暖かそうなブーツを用意したから。」
「しかし・・・・・・!!」
「たしかに、我々が思い描くサンタの格好とは少し違うかもしれないが・・・・・・。大きく変わるところはない。これなら問題ないだろう。それに、俺は可愛いと思うぞ、。」
「あ、ありがとう・・・・・・。ってか、柳、サラッとすごいこと言ってくれるね。」
「俺も好きだぜぃ、その格好!」
「いいんじゃないか。」
「そうじゃのう・・・・・・。赤也にも見せてやりたいぐらいじゃ。」
「はいはい、ありがとね。」
「さんなら、何を着ても似合いますよ。」
「ハハ・・・・・・ありがと。柳生もサラッといいこと言うわね。まぁ、とにかく。私も恥ずかしいから、さっさと行って終わらせようよ、真田。」
「む・・・・・・。がそう言うのなら・・・・・・。」
「じゃあ、行くよ。」
そう言った幸村を先頭に、ジャッカルがさっき言ってくれたように、私はみんなに隠れながら赤也の家へと急いだ。赤也の家の前では、いつから待っていてくださったのか、赤也のお姉さんが出迎えてくださった。
「みんな、久しぶりね!・・・・・・あら、今年はちゃんがサンタ役?」
「はい、お願いします。」
「こちらこそっ!愚弟をよろしくね?」
「いえ、とんでもないっ!」
「いいのよ。本当、アイツは馬鹿なんだから・・・・・・。ちゃんみたいな良い子が彼女なんて勿体ないわ。私にも、良い彼氏できないかしら〜・・・・・・ってそれは置いといて。ちゃん、今日の格好は一段と可愛いわね!!」
「俺が用意したんです。」
「さすが、幸村くん!いい仕事するわ!」
ちなみに、去年は真田がサンタ役だった。夜、女子を出歩かせることはできない、との理由で私は同行できなかったから、詳しくは後からみんなに聞いたんだけど。そのときも、赤也のお姉さんが今日みたいに協力してくださったらしい。
だから、今も幸村と嬉しそうに微笑み合っていらっしゃる。・・・・・・まぁ、ありがたいことだよね。
「それじゃ、ちゃん。私はここで待ってるから。家に上がって?バレないよう、ゆ〜っくりでいいからね?」
「あ、はい。ありがとうございます。」
「。」
「ん?」
「プレゼント。」
「あぁ、ゴメン。忘れてた。」
「これを忘れたら意味がなかろう。ちゃんと袋ごと用意したんじゃから、しっかり担いで持って行きんしゃい。」
「わかったよ、ありがとう。それじゃ、行ってきます。」
私は仁王から受け取った袋をサンタらしく肩に担ぎ、切原家へとお邪魔した。袋は何も入ってないんじゃないか、というぐらい軽かったけど、一人分ならこれぐらいだろう。何も、私は本当のサンタさんではないんだし。
そう考えると、赤也を騙してるわけだから、ちょっと罪悪感があるよね・・・・・・。いや、でも!その期待を裏切らないためにも、私はこの任務を遂行しないと!
お姉さんに言われた通り、私はゆっくりとこっそりと赤也の部屋へ入った。そこには、既に熟睡している、愛しの彼氏の姿があった。
・・・・・・本当、可愛いんだから!
などという邪念を払い、私はそっと袋を下した。さて、中身を出してみると・・・・・・。
「・・・・・・?」
リボン??まるで、プレゼントの箱から取れたかのように、可愛いリボンが一本入っているだけだった。
・・・・・・まさか、仁王が用意してくれたプレゼント、何かのタイミングで失くしてしまったんだろうか?!でも、私がここに来るまでに落とす可能性は極めて低い。じゃあ、もっと以前に??ってことは、今から仁王たちに言いに行っても、問題は解決しないだろう。
とにかく、これが何かの役に立つ可能性も捨て切れない。だから、私はリボンを左手に持ったまま、赤也の方へと近付き、ベッドの横に置かれた赤也からの手紙を右手で取った。
暗くて見にくいけど・・・・・・少しずつ暗闇に慣れ始めてきた目で、赤也がサンタさん宛に書いたであろう手紙を凝視する。
本当、この歳になって、サンタさんに欲しい物を書くって・・・・・・どんだけ可愛いのかしら、私の彼氏は。という考えは、一気にどこかへ飛んでしまうことが書かれていた。
『サンタへ
俺の欲しいものは・・・・・・先輩っス!
切原 赤也』
いや、見間違いだろう。きっと、まだ目がよく見えてないんだと、見直そうとした瞬間。手紙を持っていた方の手を、誰かにガシッと捕まえられた。
「ちゃんと読んでくれたっスか?サンタさん・・・・・・?」
マズイ。赤也に捕まえられてしまった!このままじゃ、サンタじゃなくて、私がここに来たってバレてしまう!!
だからと言って、この手を振り解こうとするのは、サンタさんらしくない行動だ!と変に真面目に悩んでしまった私だけど、その心配は不要だった。
「・・・・・・って、先輩じゃないっスか!じゃあ、もうプレゼントは届けてもらえた、ってことっスね!!」
「え?」
「だって、俺、今年の欲しいものは、先輩って頼んでたんスよ〜。“物”じゃないから無理かなーとは思ってたんスけど、なかなかサンタもやるっスね!」
赤也にそう言われ、私も咄嗟に話を合わせた。
「そうなのよ!私もビックリしちゃったわ。まさか、サンタさんにプレゼントを届けてもらえるんじゃなくて、プレゼントとして届けられちゃうなんて・・・・・・。」
「たしかに、それはレアな経験っスね!しかも、ちゃんとリボンまで持たせてもらってるじゃないっスか、先輩!」
・・・・・・まさか、リボンがこんな風に役立つとは。
「そうね。あとは私に結べば、プレゼントの出来上がりね!それじゃ、赤也。これからもよろしくね?」
「え・・・・・・。今から帰るんスか??」
「そうだけど・・・・・・?」
「ダメっスよ!こんな夜中に一人で帰るなんて、危ないじゃないっスか!!」
「大丈夫よ。外にはみんなが・・・・・・と言うか、サンタさんとトナカイさんが待ってるのよ。」
「えぇっ?!!マジっスか?!」
「うん、特別にね。だから、誰かに見つかってしまう前に早く行かないと。」
「そうっスか・・・・・・。それじゃ、気をつけてくださいね?」
「うん、ありがとう。」
「・・・・・・って、アレ?その袋、何スか?それに、よく見たら先輩、サンタの格好してるじゃないっスか!これじゃ、まるで、先輩が・・・・・・。」
「違うよ、赤也。この服も特別にサンタさんが用意してくれて・・・・・・。で、この袋は、さっきまで私が入ってたの。」
「えぇ?!先輩にそんなことさせるなんて、俺、サンタが許せないっス!!」
「大丈夫よ。ちゃんと安全を確認して、入ってたから。だから、プレゼントを届けてくれたサンタさんに感謝しなきゃダメよ?」
「・・・・・・そうっスね。わかったっス!先輩も、ありがとうございました!」
・・・・・・任務は成功、と言えるのかな??ともかく、赤也の夢は壊さずに済んだだろう。
「――ただいま、戻りました。」
「あれ、ちゃん?早かったわね。」
「そうですか?多少、問題があったんですけど・・・・・・。そうそう、仁王が用意してくれたプレゼントも失くしちゃったみたいだし。」
「ん?ちゃんと入れたつもりぜよ?」
「でも、リボンしか入ってなかったよ?まぁ、何とか上手く誤魔化せたから良かったけど。」
「・・・・・・そうか。・・・・・・それはすまんかったのう。」
「ううん、大丈夫。仁王の所為じゃないよ。それじゃ、帰ろうか。」
家に向かいながら、どうやって誤魔化したかをみんなに説明した。誤魔化せたと言ったとき、仁王や幸村が少し不思議そうにしていたけど、私の説明を聞いて納得してくれたみたい。でも、どこか呆れたような表情でもあったけど・・・・・・気の所為だろう。
などと思っていると、次の日の部活でも、その2人と・・・・・・そして赤也、3人の不思議な会話を耳にした。
「おう、赤也。昨日はすまんかったのう。」
「いいっスよ。仁王先輩の所為じゃないっス。それに、俺に話してくれる先輩を見て、そういう気じゃなくなったんスよね〜・・・・・・。何て言うか、この人、本当可愛いな、って。」
「だからこそ、余計にそういう気になってほしかったけどな。あの服も良かっただろう?」
「たしかに、アレは良かったっス!さすが、幸村部長!!でも俺、先輩をいただくときは、フツーの服の方がいいっスかねー。」
よくわからないけれど・・・・・・赤也が嬉しそうにしているし、それに私を褒めてくれてるみたいだから良かったかな!
サンタさんを信じている切原くん。もし彼が“純粋”故ではなく、“確信犯”だったら・・・と思って書きました(笑)。もちろん純粋も好きだけど、確信犯でも好きだ!!むしろ、確信犯の方がオイシイと思う!(←)
でも、本当の切原くんには純粋でいてほしいです(笑)。なので、今回の作品は所謂捏造ってやつです。
あと、これも春ごろに完成しておりました。これも、というのは、実は次に更新する物も以前に完成していたんですよ!むしろ、今回の作品の方が遅かったですねー。ま、そんなわけで、完成しているのにまだアップできない作品、こちらもお付き合いいただければ幸いです♪
それでは、良いクリスマスを〜・・・☆彡
('10/12/24)